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zoom RSS 一阿の 「心柱」W−1

<<   作成日時 : 2013/08/29 07:00   >>

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宝地院の浩安和尚は本堂の控の間に長い座卓を置いて、たこ焼きで一杯やっていた。私が駆けつけたのは、彼の命があと三カ月保たないと聞いたからである。喉頭の腫瘍は進んでゐて、手術は出来なかった。医者は彼にそのことを伝へてゐた。

「これしか喉に通らんのや。」 彼は最上の言い訳をみつけて嬉しそうに、蛸をつまみ出して明石焼きのあの柔らかい玉子を肴に一杯やってゐた。やってゐるやうに見へた。和尚は上京時よく愚老の陋屋へ泊まった。四畳半一間である。大正大学の同級生が芝増上寺の管長をしてゐたが、この寺の立派な別室は性にあわぬらしかった。

ちびちびやりながら話しは深更に及んだ。天風先生の話し、田辺聖子の「カモカのおっちゃん」の話し、戦前の神戸の話し、話題はつきなかった。和尚はちょっとした神戸の文化人で紫綬褒章ももらってゐた。荒田に住んでゐた「カモカのおっちゃん」や田辺聖子とも仲が良かったのである。

翌朝「水を一杯くれんか」と言うので、コップに水をついで持って行くと一杯飲んで、「ほんまの水やないか。」とびっくりされた。彼は当然「酒」だと思ってゐたのである。和尚は死を前に悠々と酒と戯れてゐた。大悟徹底とは言はないが、彼にとって人生の終末は正に法然上人のひとことに尽きる。

「知者の振る舞いをせずしてただ一向に念仏すべし。」彼の横に一人の老人が黙然と座ってゐた。何も言はなかった。「ほナ・・帰るからな・・ 」。立ち上がった。見事な「見舞い」であった。和尚に「あれは誰や」と聞いた。「友達や」と答へた。

昨年和尚の十三回忌で宝地院を訪ねた時、若和尚(正興和尚)に「あの時のお友達は誰ですか」と問うてみた。あの方はと言うて、「心柱T」に出てくる「前途展く(佐藤春夫)」の182頁を教へてくれた。そこには次の物語が書かれてゐた。

「・・・漢口では隊員一同に1日の自由行動を許し、12時間後集合の場所として駅を指定しておいて龍彦(浩安和尚のモデル名)は隊員を京漢線によって朝鮮大邱に移動の手続の為、輸送司令部へ出向く途中、途上て『やあ古塚ぢやないか』聞き覚えのある声で親しげに呼びかけられたのを見返ると、思いがけなくも眼前に立ってゐるのは、小学校から中学卒業までいつも同級で親友であった、あの医者の息子である。

中学卒業後は、京都の薬学校に入学してゐるとは聞いてゐたが、かけ違ってまだ一度も会ったことがなかったのに、この広い中国の戦場でゆくりなくも数年ぶりにめぐり会ったわけであった。見れば彼も同じく少尉らしい。『お前どこに居るんや』と龍彦は思はず地方人の言葉、それも神戸の訛をまるだしが口を衝いて出た。『おれはここの貨物敞の副官や、そいでお前は?』と相手も同じやうな調子で答へたのは嬉しかった。『おれか、おれは飛行部隊、衡陽の派遣隊から部隊を引率して、大邱の本隊へ復帰の途中だ。』と立話に身が入って・・・・・」とあります。

見舞い客は和尚の戦友で幼なじみだったのです。無言の見舞いの重さとやさしさを私は感じてゐました。それから浩安和尚の命がけの旅か始まるのです。彼は 息子(正興和尚)の車で対馬まで行きます。

そこには安徳天皇のご陵がある筈であった。安徳天皇は二位の局に抱かれて「海の底にも都の候ぞ。」と壇ノ浦で崩御遊ばされたことになってゐるが、和尚はこれに異を唱へ、安徳天皇は難を逃れ対馬で終焉を迎へられたと言う説を採った。和尚の大正大学の卒論もこれがテーマであった。

彼は、最後にこの目でちゃんとそのご陵を見ておきたかったのだ。この旅の無理が彼の死期を早めることになる。和尚は帰紳後間もなく浄土へ旅立ってしまふ。御陵には宮内庁の立札が立ってゐます。この地は明治16年4月5日付けをもって「安徳天皇御陵墓御見込地」となり、明治40年に「御陵墓伝説地」と改称されたが、昭和2年に「御陵墓参考地」と改められます。

(つづく)

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