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zoom RSS 一阿の 「吉田 学兄をしのぶ」 本編

<<   作成日時 : 2011/07/28 08:18   >>

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京橋の画廊で75期主催の絵の展覧会があった。小さな一枚の額が懸かっていた。気取らないさわやかな絵であった。絵の下に吉田 学とあった。会場に居た彼を見つけて誉めると、照れくさそうに「俺みたいな初心者でもこうして出していると、他に出してくれる人があるかも知れないからナ」と言った。何の気なしに、早く逝ったK兄の思ひ出を話すと、急に目を輝かした。「貴様も親しかったのか。俺は特に彼には深い思ひ出がある。」いい奴だったな。二人の思ひは同じであった。 毎年、盆の頃になるとS兄と鎌倉光明寺のK兄の墓参をしていたが、翌年から彼も参加した。それは彼の帰天の時まで続いた。

昭和58年3月18日浦賀ドック追浜造船所では、今まさに新鋭自衛艦「夕張」が進水しようとしていた。支綱が主賓によって切断された途端、くす玉が割れ巨体が静かに動き出す筈であった。しかしこの日は違っていた。主賓がまさに斧を振り下ろそうとした瞬間、「夕張」が船台を滑り出してしまったのだ。式典の中枢の人達は凍てついた。スイッチを押す作業員はもとより時の造船所長K、勿論会社の名誉にもかかわる。もし是が翌年同じ船渠で進水した「日本丸」の時であったらと慄然とする。というのはこの時の主賓は美智子妃であらせられたからだ。美智子妃殿下はKがその作法をお教えした。さて、吉田は事の重大性を 直感した。それは瞬間の出来事であった。吉田海上幕僚長は傍らの谷川防衛庁長官を振り返りざまこう言ったのだ。「長官。この艦は行き脚がいいですナ。きっとわが国防衛に大いに役立つに違いないですよ。」長官は、にやりとした。事はそれで収まったのだ。もしこのとき吉田の機転がなかったらと時々思ひ出す。判断とか決断とか配慮と言った悠長な世界ではない、彼の血の中に流れていた人格と胆力のなせる瞬間芸であった。

「俺は明智の生まれなんだ。」と昔のことを話してくれたことがあった。もっと真剣に記憶に留めればよかったのにと残念に思うが、詳しいことは忘れた。彼の祖父は明智光秀の家老の血筋である。大変豪放磊落で村人から畏敬されていたらしい。そう言へば彼は恵那中を出ている。「夕張」進水時の彼の行動はその血脈のなせる業と考えたりもする。明智村は伯父が日本鋼管の溶鉱炉用の耐火煉瓦の製造会社・明智耐火煉瓦(株)を造ったのでよく聞いていた。何れにしても75期は網の目のやうに何処かで繋がってゐる。

吉田はまたKに密かに頼んだ。「潜水艦の補修を浦賀でやりたいんだが。」Kは黙って頷いた。当時も左翼・労働組合の頑強な抵抗が予想された。蛇足だがその頃呉にあった補修基地へは瀬戸内海通過故に浮上航行を余儀なくされてゐた。極秘行動を生命とする潜水艦にとっては致命的だ。二人に とって言葉は要らなかった。防衛の一事にかくも辛酸を舐めねばならぬ国に成り下がったこの祖国の環境の中で、75期はその立場々々で国の為に尽くし消えて行った。一部の進歩的知識人・リベラルと称する不思議な連中を除いては。最後に平成十五年倉敷での彼の活躍に言及したい。

水島にF兄(オ110)がゐる。海運業界で多大の功績があったが、自らは何も喋らない。たまたま2002〜2003年度国際ロータリー第2690地区の地区大会 があった。その地区の約3000人の会員が参集した(この時ニュージーランドから来日した代表者は今世界のロータリークラブ会長になってゐる)。この式典を取り仕切ったのがF兄である。彼は主行事の講演会の講師に吉田元海幕長を選んだ。会員の中には反対者も多数ゐたがFの一睨みは効いた。吉田は快諾してくれた。演題は「21世紀における日本の課題」であった。インド洋における給油活動の重要性、中露の現状を淡々と述べ聴衆の注目をあつめた。ロータリー と言う場では殆どの演説者は当たり障りのない話題を選び時流に媚びる。しかし吉田はそうではなかった。話しが終ると、壇上てFは主催者として礼を述べ、 吉田とがっちりと握手した。75期同士の握手であった。私には一幅の絵のやうに思へた。

江田島を出て58年が過ぎてゐた。この時副官のように付き 従い何かと世話をしたのは防大6期の一佐(某信用金庫の役員)であったが、海将と一佐は一目で分かり合った。私には分からぬ部内の用語も心地よいもので あった。帝国海軍と海上自衛隊のまことに自然な流れがそこにはあった。彼の行く所常に春風が吹いてゐた。「春風江上路不覚到君家」 パインで直枝女将によく見せてもらったあの書、良寛さんが飄々としたためたやうな米内さんの書を思ひ出した。合掌


(*明日は続編をお届けいたします。)

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