蒼海の 「中国水泥の旅」-同行九人、五千キロ- 二 簡体字 2

 文字に関して、中国を批判するような話になったが、日本にも略字の使用を強制した歴史が、現在まで四十年以上続いている。

 その体系に慣れきった現在、偶に旧漢字を目にすると、異様な印象を受けることがある。 私は、二年前から戦中の回想録を書き始めたが、当時の関係文書を読み返すと、旧漢字が多く並び、初めは若干抵抗があったが、慣れるうちに、何か懐かしさを感ずるようになってきた。そのため、今では、過去の関係文書を引用するとき、必ず旧漢字を使用することを旨としている。

 だが、パソコンのワープロソフトを使用して文書を作成しているので、旧漢字を使用する上で、種々の困難に遭遇する。

 旧漢字を使う必要があると、なるべく、部首入力をするように心がけているが、それでも見つからないことが屡々ある。その場合は、JIS第一・第二水準漢字一覧表から、コード番号を探し、コード入力をすることになる。

 往々にして、第二水準漢字として指定されていない漢字に遭遇することがある。こうなると、あらたに、字を作らざるをえなくなる。その結果、約一年半の間で、三十を超える文字を作って、外字として登録したが、最近困った問題に直面し、現在新旧二種類のワープロソフトを併用しなければならないような羽目に陥っている。

 その理由は、昨年末に、「一太郎」のバージョン五を使い始めた。バージョン五では、それまでのバージョン四で作った外字辞書が使用できたので、問題はなかったが、今年の二月初めに、バージョン六に切り替えた。

 バージョン六では、バージョン四の外字辞書が使えないので、あらたにバージョン六用の外字辞書を作らなければならないが、外字の作成が面倒なので、それには手を着けずに、旧漢字を多用する文書は、高機能のバージョン六を使わないで、古いバージョン四で作成するという矛盾の中で作業をしてきた。

 だが、この原稿を書くに当たって、人名、地名などは正確に簡体字で表現する必要があるため、やむを得ず、必要な簡体字を作成・登録しなけらばならないという羽目になった。

 若干脇道にそれたが、旅行中、簡体字全盛の中国で、現代の若者が、中国の古典を読解できるのかという疑問が湧いた。

 徐州の淮海水泥廠で、昼食後数人の幹部と懇談する中で、この疑問を「簡体字だけの教育を受けた現代の中国の若者は、中国の古典を読むことができるのか。また、読解不能ということであれば、文化の断絶につながるのではないか」という表現でぶつけてみた。  五十代と思われる幹部全員が、同様の問題意識を持っていたようで、その一人、副総工程師の孔■瑞氏は、「自分の息子は、辞書を買ってきて、古典を読むよう努力している」と答えてくれた。

 今の日本でも、古文を読むのは、相当努力のいる状態になっている。また、つい五十年前まで、手紙を書くのに使われた、候文なども、現在の若者にとっては、相当の違和感を感じているようだ。

 このように、画数を少なくして、覚えやすくするという漢字体系の変更は、過去とのつながりを薄めるというマイナスの効果をもたらしていることも事実である。

 旅の途中、北京では気がつかなかったが、南京には入って、企業の門札や看板に書かれた文字が、簡体字ではなく漢字が多いのが目立った。
 不思議に思って、R女史に聞いてみると、次のような答えが返ってきた。

 「門札等は、書家に頼んで書いた貰うが、書家は老人が多く、彼らは簡体字を使うことに抵抗感をもっている。また、簡体字は、文字として美的ではないため、いきおい企業の門札等には、漢字が多い」

 さらに、北京を離れると、挨拶の時受け取る名刺にも、漢字の使用が目立った。特にこの傾向は、輸出比率の高い企業ならびに合弁企業に顕著であった。

 セメントの輸出は、主として東南アジア向けであり、その商談に華僑が介在する場合が多いため、簡体字と一線を画す漢字文化を介した交易になる。

 改革開放政策で、閉ざされた壁が取り払われつつある現在、簡体字文化も、国際化の波に曝されているような一面を感じさせられた。

 最後に、簡体字での外来語の処理状況に触れてみよう。

 漢字以外に仮名を使用する日本では、外来語は、仮名で表記する便利さがある。それでも、五十年前まで、外来語を漢字で表現する傾向が強かったが、最近は専ら仮名で対応させるので、ハイテク領域の外来語でもその処理は、いとも簡単に行われている。

 だが、中国の場合、簡体字以前の問題として、外来語の処理には苦労しているようである。
 一応外来語に対しては、意訳、音訳、合成、直輸入の四種類の処理方法で、簡体字表現をしている。
 
 意訳の例としては、コンピュータを▲◆(電脳)と書くなどが典型的な例である。
 音訳の例として、カラオケを◎拉OK、エンジンを引撃などがあるが、このうち、カラオケは、OKの二文字の英文字を併用し、苦肉の跡が読みとれる。
 合成の例として、エイズを艾滋病と表現している。この三文字は、艾滋の音と、病気を現す病の組み合わせである。
 直輸入としては、日本語の不動産、不景気などそのまま、簡体字で使われている例がある。

 いずれにしても、仮名という補助的な文字を用いることのできる日本語の場合に比べ、簡体字のみで近代的な技術社会にたいそうする中国では、新しい外来語の対応には、相当頭を悩ませている様子が伺えた。


▲ 電の「あめかんむり」を取った字
■ 「しめすへん」に羊
◆ 「にくづき」に、旁は「なべぶた」の下に凶
◎ トの下に「下」

(「簡体字」了)

※「蒼海の 『中国水泥の旅』-同行九人、五千キロ-」はまだまだ続きます

※明日は新しい方からのお手紙をご紹介いたします

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